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on-demand screening only USA.
The Story
Hokkaido, Japan: An old woman -- formerly a man -- lives by a lake in the northern reaches of Japan, gazing at Nakajima Island in its center where her daughter's body was found long ago. She hasn't been able to visit for almost 50 years.
Tokyo: A middle-aged man lives on an island where criminals were once exiled in the past, earning a sparse living as a cattle herder. He is descended from such exiled criminals. He raised his only daughter by himself after losing his wife in an accident. One day, the daughter comes home from the mainland, seemingly pregnant but unwilling to explain.
Osaka: A woman who was sexually assaulted as a child comes to Osaka for the first time in a while to attend the funeral of her ex-boyfriend.
As each of these women board ships and separate themselves from time and locations, the emotional scars and sins they carry become apparent. Their voices of grief and anger transcend space and resonate with each other. Eventually, they gain release and their voices begin to fill with joy.
十二月の雪深い北海道・洞爺湖のほとり。マキが遠くに見える中島に向かって、「れいこ……」と囁く。れいことは、わずか六歳でこの世を去ってしまったマキの次女である。年が明け、マキのひとり住まいの家に家族が集まった。マキが丁寧に作った御節料理を囲んで団欒のひとときを過ごす家族だったが、そこにはそこはかとなく喪失の気が漂う。マキはかつて性別適合手術を受けて長らく女性として生きてきたが、長女の美砂子はそんな親のことを完全には受容できていない。「来るのこれで最後かも」と言い残して、美砂子と夫、その娘たちは去ってゆく。ひとりきりになったマキのいる部屋が水の音に浸されてゆくと海のなかのような空間へと変質し、彼女はそこでれいこの巻き込まれた性暴行事件の一部を再演しはじめる。れいこを失ってしまってから四十七年の月日が経ってもなお、マキは窒息しそうな世界で喪に服しつづけているのだった。大昔に罪人が流されたという東京・八丈島。牛飼いの誠の家に、娘の海が五年ぶりに帰省した。明らかに身重である海に、しかし誠はなかなか聞き出せない。誠は車の運転中に、幼い頃の海との会話を再演しはじめる──「とっちゃん、もういいじゃん。十分お母さん頑張ったよ」。誠と海は、交通事故に遭った母親の延命治療を止める決断をした過去を共有していた。その罪の意識はいまも消えていない。海の部屋で手紙を発見した誠は、そのなかから菊池礼太の名が書かれた離婚届を取り出す。その男はフェリーで島へとやってくるらしい。誠は一目散にフェリー乗り場へと車を走らせる道程で、海に出くわす。ようやく海に妊娠のことを問いただした誠に、彼女はいつ離婚してもいいからとプロポーズを受けたのだと打ち明ける。誠は海を乗せて走り出す。到着したフェリー乗り場で海は堤防へと走り出し、近づくフェリーに向かって無心に愛しい人の名を叫ぶ。
深手は、なかなか塞がらない。
塞がったあとは、再び開かぬよう傷を庇い生きる。
あとは心と体のどこかに無理をかけながら、庇うことに慣れるしかない。
あの日、男の欲望の下敷きになった少女は幼すぎて、自身についた傷が一生を左右することを知らなかった。
「汚れた」という言葉に囲まれた少女は、いつの間にか人の声に汚れていった。
死を考えた日、生きることを選んだ日、そのどちらにも癒えぬ傷があった。
男は欲望とともに、のうのうと生きている。
ならば自分は、傷とともにのうのうと生きてやろう。
六歳のあの日、わたしは痛みに泣いた。
十代のあの日、わたしは疵に泣いた。
そして傷をたずさえたまま、映画を作ることを覚えた。
自己憐憫は邪魔だ。
わたしは、傷を元手に生きてきた。
だからいま、一月の声に歓びを刻む。
三島有紀子
- Year2024
- Runtime118 minutes
- LanguageJapanese
- CountryJapan
- Subtitle LanguageEnglish
- Note©bouquet garni films
- DirectorYukiko Mishima
- ScreenwriterYukiko Mishima
- ProducerShimpei Yamazaki, Yukiko Mishima
- CastAtsuko Maeda ,Maki Carrousel, Show Aikawa
on-demand screening only USA.
The Story
Hokkaido, Japan: An old woman -- formerly a man -- lives by a lake in the northern reaches of Japan, gazing at Nakajima Island in its center where her daughter's body was found long ago. She hasn't been able to visit for almost 50 years.
Tokyo: A middle-aged man lives on an island where criminals were once exiled in the past, earning a sparse living as a cattle herder. He is descended from such exiled criminals. He raised his only daughter by himself after losing his wife in an accident. One day, the daughter comes home from the mainland, seemingly pregnant but unwilling to explain.
Osaka: A woman who was sexually assaulted as a child comes to Osaka for the first time in a while to attend the funeral of her ex-boyfriend.
As each of these women board ships and separate themselves from time and locations, the emotional scars and sins they carry become apparent. Their voices of grief and anger transcend space and resonate with each other. Eventually, they gain release and their voices begin to fill with joy.
十二月の雪深い北海道・洞爺湖のほとり。マキが遠くに見える中島に向かって、「れいこ……」と囁く。れいことは、わずか六歳でこの世を去ってしまったマキの次女である。年が明け、マキのひとり住まいの家に家族が集まった。マキが丁寧に作った御節料理を囲んで団欒のひとときを過ごす家族だったが、そこにはそこはかとなく喪失の気が漂う。マキはかつて性別適合手術を受けて長らく女性として生きてきたが、長女の美砂子はそんな親のことを完全には受容できていない。「来るのこれで最後かも」と言い残して、美砂子と夫、その娘たちは去ってゆく。ひとりきりになったマキのいる部屋が水の音に浸されてゆくと海のなかのような空間へと変質し、彼女はそこでれいこの巻き込まれた性暴行事件の一部を再演しはじめる。れいこを失ってしまってから四十七年の月日が経ってもなお、マキは窒息しそうな世界で喪に服しつづけているのだった。大昔に罪人が流されたという東京・八丈島。牛飼いの誠の家に、娘の海が五年ぶりに帰省した。明らかに身重である海に、しかし誠はなかなか聞き出せない。誠は車の運転中に、幼い頃の海との会話を再演しはじめる──「とっちゃん、もういいじゃん。十分お母さん頑張ったよ」。誠と海は、交通事故に遭った母親の延命治療を止める決断をした過去を共有していた。その罪の意識はいまも消えていない。海の部屋で手紙を発見した誠は、そのなかから菊池礼太の名が書かれた離婚届を取り出す。その男はフェリーで島へとやってくるらしい。誠は一目散にフェリー乗り場へと車を走らせる道程で、海に出くわす。ようやく海に妊娠のことを問いただした誠に、彼女はいつ離婚してもいいからとプロポーズを受けたのだと打ち明ける。誠は海を乗せて走り出す。到着したフェリー乗り場で海は堤防へと走り出し、近づくフェリーに向かって無心に愛しい人の名を叫ぶ。
深手は、なかなか塞がらない。
塞がったあとは、再び開かぬよう傷を庇い生きる。
あとは心と体のどこかに無理をかけながら、庇うことに慣れるしかない。
あの日、男の欲望の下敷きになった少女は幼すぎて、自身についた傷が一生を左右することを知らなかった。
「汚れた」という言葉に囲まれた少女は、いつの間にか人の声に汚れていった。
死を考えた日、生きることを選んだ日、そのどちらにも癒えぬ傷があった。
男は欲望とともに、のうのうと生きている。
ならば自分は、傷とともにのうのうと生きてやろう。
六歳のあの日、わたしは痛みに泣いた。
十代のあの日、わたしは疵に泣いた。
そして傷をたずさえたまま、映画を作ることを覚えた。
自己憐憫は邪魔だ。
わたしは、傷を元手に生きてきた。
だからいま、一月の声に歓びを刻む。
三島有紀子
- Year2024
- Runtime118 minutes
- LanguageJapanese
- CountryJapan
- Subtitle LanguageEnglish
- Note©bouquet garni films
- DirectorYukiko Mishima
- ScreenwriterYukiko Mishima
- ProducerShimpei Yamazaki, Yukiko Mishima
- CastAtsuko Maeda ,Maki Carrousel, Show Aikawa